次女にはニックネームがある。
それもただ一人に使われるニックネーム。
いや、ニックネームですらない。
そもそもは私のいい加減な相づちから始まってしまった悲劇の呼び名。
それは「ジョーイ」。
いつも行くスーパーマーケット、当然妊娠中も大いに利用していた。
子供に優しいこの国で、レジのおばちゃんがあれやこれやと声をかけてくれる。
「ジョーイ」も産まれる前から、このおばちゃん達の関心を引いていた。
出産予定日も間近に控えたある日、ペニーというレジのおばちゃんと例によって
子供の事をいろいろ話した。
なぜか彼女には私が印象深く残ったらしく(なぜかある種の人には、私や長女が強く印象に残るらしい)、産まれるまでも、産まれてからも声をかけてくるようになった。
そしてその日に悲劇は起きた。
まだ2ヶ月にもなっていない「ジョーイ」が泣きに泣いて、
大汗かきながらレジを済ませていると、
ペニーが、大丈夫?とかどうしたの?とか話しかけてきた。
こちらとしては、お金を払わなければいけないわ、
長女はうろうろどこかへ消えそうになるわ、
「ジョーイ」はますます激しく泣くわで、ペニーへの返答も適当になっていた。
そんなカオスの中、彼女の悲劇の質問が繰り出されていた。
「ところで、その子ジョーイよね?」
汗だくになりながらどんな質問にも「Yes」か「She's O.K.」と答えていた延長で、
その質問にも「Yes」と言っていたのだ。
答えながら、レジを去りながら、「そうね、そうだと思ったのよ」と満足そうにうなずくペニーに違和感を覚えながら、
でも訂正せずにいた。
それがその後、低温やけどのように、じわじわと私を苦しめる原因になるとも知らないで、、、。
それ以来ペニーは、彼女のレジに並んでいない私のところにわざわざやって来ては、
「ジョーイはどう?」とか、次女が泣いていると、「今日のジョーイはどうしたの?」と、親戚のおばちゃんさながらの親しさで声をかけてくるようになった。
英語なので、名前で呼ばず「she」で済ます事も出来るのに、彼女はなぜか執拗に(と私には聞こえる)「ジョーイ」と呼ぶのだ。
毎回毎回声をかけられ「ジョーイ」と呼ばれるたびに、
「あ、実は違うんです。」と言わなくてはと思いつつ、
言い出せず、曖昧に笑いながら後ずさりしながらその場を後にする。
タイミングを失うたびに、一枚一枚薄いけど確実に重くなっていく布をまとうように、次女はますます「ジョーイ」になっていく。
悲劇の呼び名「ジョーイ」。
これが訂正される日はいつか来るのだろうか、、、、。