2007年10月23日火曜日

記憶の役目

先日父親が、出張でベトナムへ行ってきた。
体調もあまり良くなかったようで、行く前はかなり憂鬱そうだったが、帰ってきてから話した声はむしろ元気そうだった。
昔からなんだかんだいいながら、なんでも上手く乗り切っていく人なのだ。

それはそれとして、父の話すベトナムの風景は以前ハノイに暮らしていた時のことを思い出させて、懐かしかった。
と、思っていた次の日に、30度を超える暑い日になった。
湿気の多いベトナムとここの乾燥した暑さとは、随分違う。だけど、その日は夕方から雨の気配がしてきて、湿気って生暖かい風が吹いてきた。結局雨は降らず、思わせぶりな雰囲気が漂っただけだったけど、ベトナムのだるい午後を思い出させるには十分だった。
結婚もせず、子供もいず、あくまで独り(だと思っていた)の日々。
振り返る価値のある、心地のいい記憶。そういう記憶があるから、今もこれからも生きていけるような気がするのだ、と、思う。

「私はね、よく昔の事を考えるの。こうして日本中逃げ回るようになってからは、とくにね。それでね、一生懸命思い出そうと努力してると、いろんな記憶がけっこうありありとよみがえってくるもんやねん。ずっと長いあいだ忘れてたことが、なんかの拍子にぱっと思い出せたりするわけ。それはね、なかなか面白いんよ。人間の記憶ゆうのはほんまにけったいなもので、役にも立たんような、しょうもないようなことを、引き出しにいっぱいつめこんでいるもんなんよ。現実的に必要な大事なことはかたっぱいから忘れていくのにね」
村上春樹「アフターダーク」より